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八広

川本 善信

筆者 川本 善信

不動産キャリア20年

親切丁寧に対応します。

京成押上線の八広の史実について少し触れてみたい。近隣の押上や曳舟は再開発により高層マンションが立ち並ぶ人気エリアとなったが、墨田区の最北東に位置する八広の駅前はドラッグストアぐらいしか目立つ店舗はない。八広は動物油脂や皮革を扱う工場が集まる地域である。墨田区には現在の京島二丁目付近に屠畜場があった関係で、そういった産業が発展していったのであろう。1908年に認可を受け、1936年まで営業し、その後品川屠場に統合されたという。

八広の隣町の東墨田には都立皮革技術センターがある。革の三大産地は姫路、和歌山、東墨田といわれる。和歌山、姫路は牛革、東墨田は豚革が主流だ。これは食肉の差によるもので、関西で肉といえば牛肉、関東では豚肉となる。食肉は国民の胃袋へ、油脂や皮革は工業製品や革製品となった。東墨田の豚革は国内では90%以上の生産量を誇り、世界でも有名な豚革生産地である。

油脂皮革関連企業協議会が多少の騒音や煤煙・臭気はご承知くださいと書いた看板を掲げるこの街は、特別工業地域である。食肉加工場で剥がされた皮は腐敗しないように塩漬けとなる。塩漬けされた皮を洗浄したあと、裏打機で余分な脂や肉片を除去していく。その後石灰漬け、石灰除去、なめしと革となるまでハードな労働をクリアしなければならない。

八広・東墨田エリアではこの革製品の製造行程から排出される臭いに敏感な人も稀にいる。人によって表現は区々だが、私見でもつ焼き屋にいるような臭いを感じる程度である。それも場所や風向きによるし、工場の操業時間外だと気にならないかつて50社以上の工場が創業していた当時の臭いはそれなりにきつかったのだろうが、今は10社程度に減少しているから、その程度であると思われる。そして現在、工場は更に減少傾向にあるようだ。

昔から続く産業の縁もあってか、墨田区北部には精肉店やもつ焼き屋の件数がかなりある。どこもそれなりに旨いし安い。人間はベジタリアンやヴィーガンでもない限り、日に一度は肉を口にするはずで、私自身は食肉加工から派生したこの文化を墨田区民として誇りに思っている。八広にも新築の分譲マンションがかなり建ち始めている。駅から少し歩けば都内一安いと噂されるスーパーベルクス東墨田店もある。家賃も墨田区内の他のエリアより一割程度安い設定だし、是非お勧めしたい場所である。

写真は八広にある精肉店直営の食堂のランチメニューの牛丼(近江牛)であるが、安い・多い・旨いの三拍子が揃っていた。